大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

函館家庭裁判所 昭和63年(少ハ)3号 決定

少年 Z・M(昭43.10.6生)

主文

本人を昭和63年12月6日まで中等少年院に継続して収容する。

理由

1  本件申請の収容継続の理由及び期間は、本件記録中の北海少年院長作成の収容継続申請書記載のとおりであるからここにこれを引用する。

2  当裁判所の判断

(1)  本人は、窃盗(車上狙い、侵入盗)、有印私文書偽造、同行使、許欺(窃取した預金通帳を使用しての預金の払い戻し)保護事件(当庁昭和62年少第978号事件)により昭和62年11月10日中等少年院送致の決定を受けて北海少年院に収容され、昭和63年5月12日に少年院法11条1項但書により同年11月9日まで収容を継続する決定がなされたものである。

(2)  本人は、経済的精神的に恵まれない家庭環境のもとで育つたこともあつて、現金や物への強い執着を持ち、自己中心的で欲求不満耐性に乏しい性格で、協調性に欠け、中学卒業後のいくつかの就職先も短期間で辞めて徒遊生活を送るうち、上記のような非行を累行していたもので、非行は常習化の傾向すら窺われる状況にあつた。したがつて、少年院における少年に対する矯正教育では、社会性や協調性に欠ける点の変容と健全な生活意識、職業観の涵養を図ることにより、社会生活に適応する能力を身に付けさせることが期待された。

(3)  しかるところ、少年は、入院当初、内観中に逃走を企てて(但し、実行途中にその非に気づき職員に申し出たため未遂に終わつている。)謹慎処分に処されたり、人間関係にも依然消極的であるなどの問題点も認められたが、その後安定するにしたがい、与えられた役割(寮委員)も積極的に果たし、建設的な方向で自己を主張しようという姿勢が身に付きはじめ、人間関係も円滑に保てるようになつてきて、同年6月16日には一級上に進級した。それとともに、本人は、出院後土木作業員として稼働したいというかねての希望の実現をより確実なものにするため、ぜひとも資格を取得したいと考えるようになり、少年院側も、これに即して、同年9月12日から本人を同少年院の建設機械運転資格取得訓練課程に編入し、大型持殊自動車運転免許及び車両系建設機械運転技能講習終了証の取得を目指して訓練に励ませることとした。

(4)  本人は、これまで順調に上記訓練課程を履習してきており、上記資格を取得できることはほぼ確実であるところ、右資格取得のためには、少なくとも同訓練課程における実技・学科の訓練及び試験が全て終了する同年11月30日まで同少年院に在院することが必要である。

(5)  本人は、現在のところ安定した状態にあるものの、多額の債務(上記非行の被害弁償等)を返済しなければならない立場にあることから考えて、出院後また不適応を起こすことも危惧される。したがつて、本人が将来ともに安定した社会生活を営み更生するためには、有利な就職先を見つけて落ち着くことが不可欠といえるが、そのためには、上記資格を取得することにより、就職の条件を有利なものにするとともに、これまで長期の稼働経験に乏しい本人に自信を持たせることが極めて有用である。その意味で、矯正教育の目標を達成するためには、上記資格取得が是非とも必要であるといつても過言ではなく、また、本人もそれを強く希望し、少年の両親もこれに賛成の意向である。

(6)  以上の諸事情を総合勘案すれば、本人を、上記訓練課程の終了予定日に出院前処遇の指導期間として必要な6日間を加えた同年12月6日まで引き続き本少年院に収容するのが相当であると思料する。

3  よつて、少年院法11条4項、少年審判規則55条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 岡田雄一)

〔参考〕 収容継続申請書

収容継続申請書 北少発第2118号

昭和63年9月12日

函館家庭裁判所 御中

北海少年院長 ○○

氏名 Z・M 昭和43年10月6日生

本籍 北海道 茅部郡 ○町 字○○ ×番地の×

事件名 窃盗、有印私文書偽造、同行使、詐欺保護事件

事件番号 昭和62年(少)第978号

上記少年は、昭和62年11月10日貴家庭裁判所において中等少年院送致の決定を受け、現在当院に在院中のものであり、少年院法第11条第1項但し書きの収容継続の終期は本年11月9日であるが、別紙のとおり、なお矯正教育の必要があると認められますので、少年院法第11条第2項の規定に基づき、昭和63年11月10日から同年12月6日までの収容継続の決定を申請します。

別紙 処遇経過及び成績の概要

処遇経過

成績の概要

新入時教育課程

62.11.13 入院・新入時教育課程編入考査寮収容、2級下編入

11.28 規律違反(逃走未遂及び建物設備破壊)謹慎15日

12.12 謹慎解除

12.17 2寮に転寮

協調性に欠け、人間関係に障害が生じやすい点及び自己主張ができず、逃避的に振る舞いやすい点の変容並びに職業意識の涵養を本少年の教育目標とした。

内観中、両親に多大な迷惑をかけたという自責の念にかられ、早く少年院を出て被害者への弁償にあたりたいという気持ちにとらわれ、自室の防虫網を破損させ、逃走を企てた。しかし、とんでもないことをしていると気づき、途中で職員に申し出ている。この件について、謹慎処分に付し、建設的な方向で解決策を模索できない問題性の自覚を図った。

集団寮に編入後は、生彩のない表情であったものの、早く生活に慣れようとして先輩同僚に種々質問するなどの努力が認められ、さらに目標を理解して自己改善に励もうとする積極的な姿勢も見られた。しかし、慣れるにしたがい、年下の同僚からの助言に素直になれないなどの問題が生じ、されに協調性についての指導を重ねた。その結果、相変わらず人間関係は消極的であるものの、不満げな表情を示すことは少なくなった。

中間期教育課程

63.1.17 2級上進級 木材加工科に編入

1.22 成績視察 函館家庭裁判所 ○○裁判官

3.4 再鑑別実施 函館少年鑑別所 ○○技官

3.16 1級下進級

3.31 集中内省 至4月6日

4.22 仮釈放準備調査面接

5.12 収容継続決定(院法第11条但し書き)

自63.10.6 至63.11.9

5.16 皆勤賞授賞

実習中の私語を注意したことはあったものの、これまで見られた人間関係上のぎくしゃくしたところや、生活上のぎこちない態度が次第に薄れ、安定した状態で推移した。そればかりか、はきはき応答できたり、集会等での援助に素直に対応でき、役割活動等で指示したものは、やり遂げるなどの向上が認められた。

しかし、積極性については、今一歩のところで足踏み状態が続いたため、責任が重く、同僚と頻繁に接触し、良好な人間関係を保たねば遂行できない役割である寮委員に任命し、向上を図った。その後、例えば、委員の助言を軽視する同僚に対しては、職員や他の委員に相談して対処するよう指導しているが、自分が何とかしなければとの気負いから、つまらぬことで言い争うことはあった。しかし、手順を踏んでいないとは言え、建設的な方向で自己を主張しようとする構えが身に付きはじめたものと評価することができる。また、集会で厳しい内容の発言ができるようになるとともに、編入間もない同僚や、役割に任命されて日の浅い同僚に、その要領を丁寧に教えるなど、より主体的かつ活発な行動がとれるようになった。

出院準備教育課程

63.6.16 1級上進級 1寮に転寮 農業科に編入

6.24 成績視察 函館家庭裁判所 ○○裁判官

編入当初から、指示されたことには責任を持って取り組み、集会で毅然とした態度で発言するなど、前課程に比べ、より積極さが認められるようになった。また、特に実習について、もっと粘り強く取り組むように、あるいは将来について真剣に模索するようにとの指導から、日を重ねるつれ、同僚をライバル視して、負けじとばかり積極的に取り組めるようになった。こうした中で自信が持てるようになったためか、生活全般に自分を高めようとする姿勢が認められるようになった。

本少年は出院後、多額な借金の返済のため、土木作業員として稼働したいとの意向を持っていたが、そのまま生涯単純労働を続けるのは不安との気持ちを強め、資格を取得したいとの意欲を持つようになった。そのため、本少年及び保護者の希望に即して、さらに少年の向上意欲を高め、職業生活への移行をより確実なものとするよう、本月12月から11月30日までを訓練期間とする当院の建設機械運転資格取得訓練課程に編入させ、大型特殊自動車運転免許証及び車両系建設機械運転技能講習終了証の取得を目指して訓練に励ませることとした。

保護環境

実父母健在である。父親は出稼ぎのため不在がちとのことで、引受人は母親にしている。入院前の親子関係の経緯から少年の指導にやや不安が残るものの、引き受けに障害はない。

出院後の就職については、父親の出稼ぎ先に同行して同じ職場で稼働する予定であり、土木関係の仕事に従事する関係で、大型特殊自動車運転免許証等の資格は有効に活用できるものと思われる。

収容継続の理由及び期間

前述のとおり、本少年の処遇経過及び成績は安定したものとなり、建設機械運転資格取得訓練課程への編入を励みにしている。本少年については、少年院法第11条第1項但書の収容継続の終期が本年11月9日であるため、本訓練課程を修了させるには、少年院法第11条第2項の規定に基づく収容継続の決定が必要である。

よってその期間については、本訓練課程の修了する本年11月30日に、出院直前に、これまで当院で学んだ事項を改めて整理させ、出院後の生活への心構えを整えさせるための出院前処遇の指導期間として必要な6日間を加え、昭和63年11月10日から同年12月6日までの収容継続が相当と思料する。

備考

添付資料

北海少年院における建設機械運転科(昭和63年度中期)日程表(写)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例